★Grit & Glamor 最終回:奇跡を追い求めて:事実は小説よりも奇なり

Epi.33 奇跡を追い求めて:事実は小説よりも奇なり

人生の中で奇跡は特別なものではありません。それは、あなた自身が心の中で信じ続け、行動し続けた結果として生まれる自然な流れの一部です。


エピローグ : 過去と現在が織りなす新たな物語

『Grit & Glamour』をお読みいただき、ありがとうございました。

私の独立までのストーリーをはじめて書いたのは2008年のこと。小冊子『かないずむ』として、メンターとの1年間にわたるメールのやり取りを注釈付きでまとめたものでした。それから13年後、私はその内容をさらに深め、有料メルマガとしてリメイク版をお届けしました。経験を重ねた今だからこそ見える新たな視点を加え、より濃密で深い内容へと進化させることができたのです。

そして、2023年――ChatGPTとの出会いが私の執筆活動に革命をもたらしました。AIとの対話を通じて「傾聴力」をテーマに11万字にわたる文章をわずか2か月で完成させ、『ChatGPT:一問一答で広がる人間の可能性』として自主出版を実現しました。このAIとの対話は、執筆という行為をより自由で創造的なものに変えてくれたのです。

翌年、2024年にはさらなる転機が訪れます。渋谷店時代の元同僚と15年ぶりに再会し、その出会いが私の眠っていた記憶を呼び覚ましました。その再会をきっかけに、「独立までの物語を新しい視点で語り直したい」という衝動に駆られました。特に、メンターに出会う1年半前からの出来事を描くことが必要だと感じ、筆を取ることを決意したのです。

執筆の過程で偶然見つけた2004年の手帳には、成功とは程遠かった頃の私の姿が克明に記されていました。また、2004年から始めたブログも、タイムマシンのように当時の空気感や感情を鮮やかに蘇らせてくれました。書き進めるたびに、過去の自分と向き合いながら、それを未来の自分へと繋げていく作業が続きました。

AIを活用したリライト作業では、驚くほど臨場感のある描写が生まれることもあり、過去に感じた感情が鮮明に蘇る瞬間も多々ありました。感謝の涙を流しながらキーボードを叩いていた日々を思い出すと、これまでの出来事がより深い意味を持って感じられました。過去の記録と現在の視点が重なり合い、かつては見えなかった新たな物語が浮かび上がってきたのです。

そんな日々の中、「過去の自分」と再会しました。それは、母が大切に保管してくれていた「宝物ボックス」から見つけた高校時代の答案用紙でした。中には「基礎解析90点」「代数幾何100点」という文字が記されており、満点を取っていた自分の姿がそこにありました。家庭教師のおかげで数学が得意だった記憶はあったものの、満点を取っていたことはすっかり忘れていたのです。これを見たとき、まるで「満点を取っていない世界線」から「満点を取っていた世界線」へ移動したような、不思議な感覚に包まれました。

この経験は、記憶が時とともに変化し得ること、そして過去を振り返ることの価値を改めて教えてくれました。未来に向かって生きることを常に優先してきた私にとって、過去を振り返る作業がこんなにも感動を与えるとは、想像すらしていなかったのです。

こうして「過去との再会」を経て、私は新たな物語の扉を開こうとしています。記憶がアップデートされることで、今後の人生がどのように変わるのか――その未知の可能性に胸が高鳴ります。この旅を楽しみながら、これからも自分の物語を紡ぎ続けたいと思います。

……と、そんなふうに振り返りながら、すべてをまとめようとしている時、実はひとつだけ意図的に残しておいた伏線がありました。まるでピアノコンサートのアンコールのように、この物語の締めくくりにふさわしい、最後のエピソードです。

それは、独立直前に会社を辞める際、社長に直接挨拶をすることができなかったこと。会社は組織拡大の真っ只中で、社長は非常に忙しく、私自身もどこか気まずさを感じてしまい、感謝の気持ちを伝えられないまま会社を去ってしまいました。

あの時、伝えられなかった「ありがとう」は、私の独立への旅路における唯一の「未完のエピソード」として、心の片隅にずっと残り続けていました。

けれど、人生とは本当に不思議なものです。あれからちょうど1年後、そんな「未完のエピソード」に思いがけない形で向き合うことになるとは──。

それが、あの七夕の奇跡でした。


ONE YEAR LATER

人生には、忘れられない瞬間がいくつかあります。2007年7月7日、独立して約1年が経った七夕の夜。私にとって、それはまさに奇跡と呼べる日でした。

独立後、私はメンターからの的確なアドバイスや励ましを受け、一つひとつの課題を乗り越えながら、少しずつ自信をつけていきました。当初は不安だらけだったライフコーチとしての活動も、多くのクライアントから信頼を寄せていただけるようになり、ビジネスは順調どころか急成長を遂げていました。その結果、かつて夢に描いていた「高層マンションに住む」という目標も実現し、心からの充実感を味わっていました。

そんな中で迎えた七夕の夜。その日は、2人の男性クライアントとのセッションを終えた後、マンション1階にある、まるでバリ島を訪れたかのような雰囲気漂うレストランで、会話が弾む中、一緒に夕食を楽しんでいました。リラックスした心地よい空気の中、仕事の話や日常の出来事を語り合いながら、幸せな時間を過ごしていました。

食事を終え、私はクライアントさんたちを駅までお送りすることにしました。駅へ向かう道は、右にも左にも進むことができましたが、私はリバーサイドの景色を楽しめる右の道を選びました。もしあの時、左を選んでいたら――この奇跡的な再会は訪れなかったでしょう。たった一瞬の偶然が、この後私の人生に忘れられない出来事をもたらすとは、その時の私はまだ気づいていなかったのです。


テラス席の前を通りかかったその瞬間、目の前に信じられない光景が飛び込んできたのです。

そこには、あの社長が座っていました。かつて職場でお世話になり、私の人生に大きな影響を与えてくださった方。社長が知人とディナーを楽しんでいる姿に気づいた瞬間、胸が一気に高鳴り、心の奥からさまざまな感情が湧き上がってきました。

「お久しぶりです!」

気づけば、私の口からその言葉が飛び出していました。社長が振り向き、その親しみやすい笑顔を見た瞬間、あの日々が一気に蘇りました。

「お、堀口さん、今何しているの?」

変わらぬざっくばらんな声が耳に届いたその瞬間、私は胸に抱えていた思いをそのまま口にしました。

「ライフコーチの仕事をしています。このマンションに住んでいて……実は、ずっとお会いしたいと思っていました。本当にお世話になりました。ありがとうございました。」

その言葉とともに、私は高くそびえるマンションを指さしました。この場所――かつて社長に「夢は何?」と問いかけられた時、なかなか答えを見つけられなかった自分がいます。いつももどかしくて、自分の未熟さを痛感していたあの日々。でも、その問いかけに向き合い続けたからこそ、心の奥に芽生えていた「いつかこんな場所に住みたい」という小さな夢が、今こうして現実となったのです。そして、そのことを社長に直接伝えられる日が来るなんて……それは夢のような瞬間でした。

胸の中では、さまざまな感情が渦巻いていました。過去の自分への労い、これまで支えてくれた人たちへの感謝、そしてこの偶然の再会をもたらしてくれた運命への感動――すべてが一気に押し寄せてきたのです。

まるで、心の中の短冊に書いていた願い事が、七夕の夜空に届き、星々の光となってこの奇跡を引き寄せてくれたかのようでした。長い間心にしまいこんでいた感謝と想いが、この再会という形で結実した瞬間、胸が熱くなり、込み上げる感情にどう向き合えばいいのか分からないほどでした。

駅までクライアントたちをお送りする道中、私は感情を抑えきれず、涙が止まりませんでした。七夕の夜に訪れたこの奇跡に、ただただ胸が熱くなっていたのです。その姿を見たクライアントたちは優しく微笑み、こう言ってくれました。

「堀口さんの感動の瞬間に立ち会えて、本当に嬉しいです。」

その言葉に、さらに心が揺さぶられ、涙を拭うことさえ忘れてしまいました。あの時、「ありがとうございます」ときちんと伝えることができたこと――それだけで十分でした。これまで胸の奥に残っていたわだかまりや気まずさは、すっかり消え去り、ただ純粋な感謝の思いだけが心に残っていました。

天の川は、まるで織姫と彦星を結ぶように、過去の思い出と現在の自分をそっと結びつける糸のように感じられました。その光は、私が歩んできた道を優しく照らし、すべての出来事が意味を持ち、繋がっていることを教えてくれるようでした。奇跡とは偶然ではなく、心が信じ続けたものが形になった瞬間――そう信じています。この本を読んでくださったあなたにも、きっとその奇跡が訪れますように。

(完)


🖊 編集後記

ここまで10万文字をお読みいただきありがとうございました! いかがでしたでしょうか? 長い旅路を共に歩んでいただけたことに、心から感謝申し上げます。お読みいただいた中で、何か心に響いたことや印象に残ったエピソードはありましたでしょうか?  

私の感想としては、こんなに強烈な達成感に包まれた執筆体験は、これまでになかったかもしれません。自分の過去を丁寧に振り返り、書き記すことの大切さを改めて実感しました。多くの人が、過去を振り返ることなく、その時の曖昧な印象だけが心に残り、それがやがて「自分の過去」として上書きされてしまうことがあるでしょう。でも、今回の執筆を通して、今の自分があの頃の自分としっかり向き合ったことで、多くの気づきがありました。その中でも一番大きかったのは「感謝」の思いです。

 大人になればなるほど、人生において感謝の大切さに気づかされるように思います。自分が歩んできた道のりを振り返り、その中にある人とのつながりや出来事に感謝の気持ちを抱ける。そんな視点を持つことで、「良い人生だった」と心から思えるようになるのだと思います。40代最後の年に、自叙伝という形でそれを記録できたことは本当に大きな意味がありました。2024年は、これまでの人生を振り返りながら、「最高の年だった」と心から思える、不思議で特別な時間でした。過去を振り返ることで、現在の自分がより鮮明になり、未来へ向けた確かな一歩を踏み出す力になることでしょう。あとは、kindleアップに向けてもうひと仕事です。

来週からのメルマガは何にするかまだ決めかねていますが、引き続き何かKindle本にするための種まきとしてこの場を使っていきたいです。

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