発表会で、聴いている人も満足ができ、自分も楽しめるにはどうすればいいかを考えるセッション。

 先生の傍ら、演奏にもたまに参加するクライアントさんで、今後、イベントスペースでの発表会があるので、演奏する自分が楽しむ気持ちを常に持つために、楽しめるときはどんな状態なのかを色々考えてみたいとのことでした。

 このようなテーマのとき、「お客様側の視点」と「自分の視点」と両方を質問し、答えを引き出すようにしています。


 まずは、お客様側の視点です。
演奏する曲を、時間帯に来るお客様層に併せて、みんなが知っている曲でアレンジしたものを用意していらっしゃるとのことで、準備の方はできていました。

 次に、自分の視点です。
「演奏するときに、不安になってしまう時はどんな時か?」と質問しました。
間違えないようにと考えると、かたくなって、教科書のような感じになってしまう。
ミスしないように気をつけようと思うと、音楽に入れず、表面的になぞっている状態になることがあることが分かってきました。

 次に、「どこに意識を持つと、そんな状態になりやすいか?」と質問しました。

クライアントさんは、「どんなふうに思われるだろうかと聴く人を意識すると変な緊張をしやすい」とのことでした。

 「ということは、聴いてもらいたいという思いがありそうですね」と、クライアントさんに、返すと、「聴いてもらいたいって思っているのか…」と我に返っていました。

 自分で思っていたよりも、意外と他人の方に意識が向き過ぎていたところが、不安の原因のようでした。「聴いてもらっているのか不安になる」というように、他人の方に意識が向き過ぎると、相手の顔色を見ながら、自分の出方をその都度考えすぎてしまって、ときには、恐怖心になって、パフォーマンスが落ちてしまったり、集中できなくなってしまいます。

 既に、聴く人が楽しめるような選曲になっているのならば、あとは、自分がいかに集中して取り組めるか、考えればいいでしょう。
 一つ一つ考えて、言葉にしていくことで、おのずと次に考えていることが見えてくるものです。ここまでで、他人と自分の境界線がはっきりと見えました。そこを確認できたので、安心して「自分に集中するには」というテーマへ入っていきました。


 クライアントさんは、今年の前半、外国でレッスンを受ける機会があり、その時のことを思い出されていました。

 練習初日に、音が教科書的になり、自分の嫌なところが出てしまったそうです。そんな自分を認めたら、翌日から先生の話がすんなりと入るようになったようでした。

 先生には、「曲のイメージ」を意識するように教わったとか。レッスンの後、楽器がそこにないのに、イメージトレーニングの中で、「どういう音楽にしたいか?」「どんな音にしたいか?」「どういう風に流れて行きたいとか」を意識しながら、演奏しているイメージを部屋の中で繰り返し行ったようでした。

 すると翌日、先生に音が良くなっていることを指摘され、楽器がないのに、どうやってレッスンしたのか? と聞かれたほどだったようです。

 曲、音のイメージを持って取り組むと、集中できて、いい音になるという、クライアントさんのうまくいく法則が見えてきました。

 さらに、演奏のとき、いい流れをつくるために、自分自身が集中出来る曲を入れることも案として出てきました。

 最後に、当日の衣装について、私のアパレル時代の経験から、何がいいかと訊かれました。会場がコンクリートの色らしいので、夏の涼しげな雰囲気をそのまま生かせるように、生成りとか白とかで、さわやかな風のようなイメージを提案しました。また、聴く方には、「音」に集中していただけるように、透明感のある感じがいいかなと思いました。ちょうど、クライアントさんも、生成りを考えていらしたようなので、一致しました。当日は、うまく行きそうですね。

 セッションでは、自分が集中できる時のいい状態を、改めて言語化する機会となりました。


 私は、人前で何かをする場合は、「面白がらせたい」とか、「びっくりしてもらいたい」など、最初はそんな気持ちが原動力になって、いろいろとしてきましたし、何かできそうだからと思われて、人からもよく頼まれたりしてきました。

 途中、相手にとっては、あまりいいものではなかった…なんて、失敗をしたことが何度もあります。相手を楽しませることに意識があるようで、自分がびっくりしてもらいたいの方が、上になってしまったのです。

 そこからは、どんどん自分をそぎ落とす時期に入って行きました。
ある時から、「相手に伝わるもの」という意識の方が上になる瞬間があり、そのようなものを提供できるようになりたいと、創り手も成長して行くのではないかと自分自身の経験から感じています。

 結局は、やりながら考えて行かないと、成長はないなと思います。「今が最高である」と、常に思えるように日々改善していくことが、プロなのだと自戒を込めて思っています。


 今日はこちらの質問はいかがでしょうか?

自分がつい集中している時は何をしている時ですか?