日々努力を続け、今この瞬間を生きることは、それが普通になるまでは難しいものです。
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独立後、アパレルコンサルを開始することが決まった主人公に、メンターは「苦戦する」と予測していました。その言葉通り、コンサルの初期には成果が出ず、オーナーとの信頼関係も揺らぎました。苦肉の策として、店舗のレイアウトを改善するも、逆に批判を受け、結果は思うように出ませんでした。さらに別企業との契約も短期間で終了し、友人との関係にも影響が出ました。メンターの助言により、他人に成功体験を押し付けていたことに気づいた私は、コーチングの本質を見つめ直す機会を得ました。この経験は、他者を変えるのではなく、「きっかけを与える」ことの大切さを教えてくれたのです。
10.11 メンターの予感は的中
この自叙伝は、独立した日がゴールとなるため、本来ならばその後のアパレルコンサルの話は触れないつもりでした。しかし、この連載を読んでくださっている読者の方から、「その後どうなったんですか?」と質問をいただきました。そこで、あえてこの経験を書き記すことで、私自身の学びを皆さんと共有したいと思います。
メンターは「多分苦戦すると思います」と予測していました。果たして、その未来はどうなったのでしょうか?
コンサル開始当初、私は報酬設定に悩みましたが、最終的に「コーチング代+セミナー代」というシンプルな形に落ち着きました。内訳が明確だと、私自身も動きやすいし、クライアントも納得しやすいからです。コンサルの内容は接客セミナーを5回行うことから始まり、ブログ開設のサポートもしました。
ある日、ブログを始める準備のため、オーナーと電気量販店へ新しいパソコンを買いに行きました。その場で実施されていたレシート抽選で、なんと「10万円」が当たったのです!オーナーは私のことを「女神だ」と大喜び。その夜は焼肉パーティーで盛り上がりました。オーナーの前向きな姿勢に救われる日々でした。
しかし、華やかな面だけでは済みませんでした。スタッフへのコーチングは行いましたが、セッションで決まった施策をオーナーが承認しないことが続き、次第に実行不可能な状況が増えていきました。コーチングには守秘義務があるため、セッション内容をオーナーに共有できません。それが双方の信頼や行動を妨げる壁になっていたことに、私は後から気づきました。
その後もセミナーやコンサルを続けましたが、5か月経っても売上に変化が見られませんでした。そこで私は、ディスプレイの専門家である友人を呼び、一緒に店舗のレイアウト変更を行うことにしました。見違えるほど美しく整った店内に満足し、「これで結果が出る!」と期待しました。しかし、翌日オーナーから届いたのは怒りのメールでした。「立地も客層もわかっていないのに、勝手にレイアウトを変えるなんて!」と書かれていたその内容に、私は愕然としました。こちらはベストを尽くしたつもりでしたが、オーナーにとっては違ったのです。
今振り返れば、オーナー自身へのコーチングを行っていなかったことが最大のミスだったとわかります。メンターに相談したところ、「抜本的な改善には最低でも1年はかかる」と言われました。コンサルの難しさを痛感すると同時に、悔しさが胸に残りました。
そんな中、別のアパレル企業から「成果報酬型でコンサルをお願いしたい」と依頼が舞い込みました。これはリベンジのチャンスだと感じ、引き受けました。東京、大阪、神戸にある複数店舗を回り、スタッフのコーチングやディスプレイ改善、ブログ作成、セミナー開催など、あらゆる手段を講じました。しかし、3か月後に「成果が出ていない」として契約が打ち切られてしまいました。さらに、一緒に活動していた友人との関係もぎくしゃくし、これもまた終わりを迎えました。
メンターに報告すると、「堀口さん、自分がどれだけ無償で働いたか計算してみてください」と返事がきました。計算してみると、驚いたことに約100万円分の働きを無償で行っていたのです。その事実を知り、自分の甘さや未熟さを痛感しました。
この経験から、私はひとつの大切な真理に気づきました。「自分の成功体験をそのまま他人に当てはめることは不可能」であるということです。それでは「偽りの成功体験」にすぎません。メンターが教えてくれたように、「真の成功体験」とは何かを問い直し、私はコーチングの本質に立ち返る必要があると気づかされたのです。
10.12 「I LOVE ME」に込められた本質的な気づき
独立が目前に迫ったある日、私は新たな試みとして、気軽な価格で提供できるメールコーチングを始めたいと考えていました。人のやる気を引き出すことは、私にとって天職のように感じていて、コーチングを通じて自分が成長しながら誰かの役に立てることに、大きな喜びを感じていたのです。そんな思いをメンターへのメールに綴りました。
「コーチングを続けていくと、さまざまな人のメンターになっていきますね。子どもの頃から、人に良い影響を与える人になりたいと思っていたので、コーチングは私にとても適していると感じています。」
しかし、返ってきたメンターからのメールは、私の期待を裏切るような意外な言葉で始まっていました。
「堀口さん、自ら人に影響を与えようとするのは危険ですよ。なぜなら、依存ネガティブな人を引き寄せてしまうからです。情報を発信したり、コーチングをしたりするには、相当な責任を持つ覚悟が必要です。実は私も、その責任を持つ自信がなかったので、今までコンサルやコーチングを避けてきました。依存ネガティブの人は、はっきり言って商売にはなります。でも、それが本当に良いことだとは思えません。」
この言葉を読み終えた瞬間、胸の奥がドキリとしました。それまで私は、「相手に良い影響を与えること」を前向きでポジティブな行為だと思い込んでいました。しかし、メンターの言葉は、その認識を根底から揺さぶりました。「相手を変えようとするのではなく、変わるきっかけを与える存在であること。」この考え方が、私にとって新たな視点をもたらしたのです。
夢に向かって進む高揚感の中で、まるでこれから訪れる試練の予告編を見せられているようでした。その厳しさに、気持ちが重くなるのを感じました。
続くメンターからのメールには、さらに深い洞察が込められていました。
「ほりぐちさん、変わるきっかけは確かに必要です。ただ、その『きっかけ』には段階があります。『不安状態→可動状態→行動状態』。この3つのステップを理解することが重要です。不安状態にいる人が、いきなり行動状態に移ることはありません。不安状態を可動状態にするには、カウンセリング技術が必要です。例えば、潜在意識のクリーニングやトラウマの解除が役立ちます。ヒプノセラピーなども有効です。」
この「段階」という考え方に触れたとき、私の中で目から鱗が落ちました。同じようにコーチングをしても、途中で挫折してしまう人と、目標を達成する人がいる理由が、この段階によって説明できるように思えたからです。
「不安状態から可動状態、そして行動状態へ」というプロセス。この重要性を理解しているかどうかで、コーチングで投げかける問いの質はまったく異なるものになるでしょう。
けれど、このときの私はまだ手探り状態でした。行動状態にいるクライアントのセッションには対応できるけれど、不安状態にいる人にはどう接すればいいのか? コーチングの範囲を超える場合は、カウンセラーを紹介した方がいいのか? そんな思いが次々と浮かびました。
翌日、さらに届いたメンターからの新たなメールには、本質的なメッセージが込められていました。
「ほりぐちさん、変わるきっかけは『I LOVE ME』ですよ。助けてくれるのは自分だけなのに、どうして自分を責める人が多いのでしょうか? 自分を大切にできる人は、他人も大切にできるものです。そして、理想の自分と現実の自分。そのギャップを埋めることが本当に大切です。」
この言葉を読んだ瞬間、前日のメールの厳しさが、一気に雪解けするような感覚を覚えました。「自分を大切にできる人は、他人も大切にできる」というシンプルで普遍的なメッセージ。その言葉が深く心に響きました。
とはいえ、ただ言葉として受け取るだけでは不十分でした。メンターが語る「I LOVE ME」の本当の深い意味――それをこの頃の私はまだ十分に理解できていなかったのです。それどころか、「どうして美容師であるメンターが、ここまで深い洞察を持っているのだろう?」と驚くばかりで、メッセージの奥深さにはまだ届いていなかったのです。
このときの私はまだ、これから始まる自分らしい人生の入り口に立ったばかりでした。それでも、これらのメールを通して、自分の中で少しずつ新しい視点が芽生えていくのを感じていました。「変わるきっかけを与える存在であること」――その言葉の本当の意味を、これからの挑戦の中で見つけていくことになるのだと。
■編集後記
今回も、金井さんの知識の深さと的確なアドバイスに改めて感嘆しました。毎回シェアしている英会話の先生たちからも、「どうして金井さんはこんなに幅広く勉強しているんですか?」と、素朴ながら核心を突いた質問が飛び出しました。
実は、金井さんご自身が経営者として、マーケティングやマネジメントの重要性を強く感じ、必要な知識を貪欲に学んできたそうです。それだけでなく、日本にコーチングを広めた伊藤守先生のセッションを一定期間受けていたとのこと。
こうしてメンターとしての豊かな資質を備えた金井さんと出会えたことに、改めて感謝の気持ちが湧いてきました。
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