奇跡があなたに起こるのではなく、あなたが奇跡を起こすとしたらどうでしょう? 最初のステップは、なりたい自分として行動することです。できるようになるまで、演じ続けましょう。
◎前回のあらすじ
主人公は『加速成功』の著者D氏やその秘書M氏のブログに影響を受け、コーチングに興味を持ちます。前職でコーチングを学んだ経験から、店長として部下とのコミュニケーションに取り入れ、成果を上げていましたが、D氏が主催するコーチングセミナーに参加し、人生全般に応用できるスキルとしての重要性を実感します。また、コーチング講座の説明会で、ある女性との偶然の出会いがシンクロニシティを感じさせ、57万円の自己投資を決断します。これが主人公の人生に新たなステージを開く転機となりました。
6.6 未来へのゴーサイン
勢いでコーチングの講座に申し込みをした直後、コーチング説明会のオリエンテーションで隣に座っていた「副社長」のTさんと食事をする機会がありました。Tさんは講座を申込まなかったようですが、大学生時代に携帯電話販売会社を起業した経験を持ち、現在は社長の育成を使命と感じているそうです。多くの経営者と交流する機会も多いとのこと。
私がまだ店長の立場だったにもかかわらず、Tさんは「今のあなたは、店長として社長をシミュレーションできる立場にいるわね」と言い、私の現状よりも一歩先を見据えた質問を投げかけてきました。
「会社の規模はどのくらいにする?」「何をする会社にしたい?」「自分はどんな人間なのか?」「本当にやりたいことは何か?」と、Tさんは次々と私の未来を引き出す質問を投げかけてきます。答えはまだすぐには出てきませんが、「質問があれば、答えはある」という言葉通り、これらの問いかけが私の未来を考えるきっかけとなりました。
そしてすぐ、ゴールデンウィークに開催される2日間のビジネスセミナーの案内が、『加速成功』の著者であるDさんから届きました。価格を見て、思わず息を呑みました。「10万円」。
Dさんの側近の方から、直々にメールが届きました。すでにコーチング講座に57万円を自己投資したばかり。さらに10万円を使うのはためらいました。「今月は、コーチングの講座ですでに大きな自己投資をしたので難しいです」と、メールを送信している自分がいました。
その日、仕事中もずっとセミナーのことが頭から離れませんでした。電車の中でも、レジを打ちながらも、頭の片隅でセミナーのことを考えていました。「行くべきか、行かざるべきか」。
夜、疲れて帰宅すると、またDさんの側近からメールが届いていました。目を疑いました。「友達割引」が適用されるというのです。
「これは宇宙からのサインかも...」
心臓がバクバクし、手が震えていました。深呼吸を何度もして、やっと自分を落ち着かせると、勢いで返信しました。「申し込みます!」
30歳。人生の転機だと感じていました。この瞬間、私の中に新しいルールが生まれました。「2回目のチャンスが来たら、それはゴーサイン」。このルールは、その後の人生で何度も私の背中を押してくれることになります。
その日の日記にはこう記されていました:
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2005.3.23
今日、奮発して申し込んだ2日間のビジネスセミナーより、宿題が添付ファイルで送られてきまして、人生100の願望、目標人物3名を記入して返信してください!と。人生100個も願望を考えたことなかったので、いきなりびっくりです。うぉー!!!スゴイセミナーになりそうな予感が早くも。こわいです。セミナーを終えた自分がどうなっているのか?
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その夜、私は寝る間も惜しんで「人生100の願望リスト」に取りかかりました。最初のうちは順調に筆が進みました。「代表取締役社長になる」「タワーマンションに住む」「ベストセラー作家になる」と、夢や目標を次々に書き出していきました。しかし、30個を超えたあたりから、思考が行き詰まり始めたのです。
自分が本当に望んでいることって何だろう? 何度も自問しながら、世界中の観光地をリストに加えたり、ありきたりな願い事も無理やり埋めていきました。
そして、自己紹介の欄に向き合ったとき、自然とこれまでの人生を振り返ることになりました。どんな経験も今の私をつくるために必要だったのだと、深い実感が胸に湧き上がりました。
6.7 未知の世界へ
この頃、私が運営するブログの人気も急上昇していました。ファッションカテゴリーで約1000ブログ中、10位以内に入るようになったのです。毎日更新を欠かさず、最新商品情報、スタッフのコーディネート例、ファッショントレンドセミナーでの学びに加え、私自身の成長の過程も綴っていました。読者からは「毎日楽しみにしています」「店長さんの成長が私の励みになります」といったコメントが寄せられ、それが私の原動力になっていました。
私のブログの主軸のテーマとしてインスピレーションになったのは、銀座店のVMD担当者から学んだディスプレイの哲学です。ある日、彼女に渋谷店のディスプレイを見てもらう機会がありました。
「2つのトルソーを並べるとき、その2体が同じ場所にいることを想像してコーディネートするの」と彼女は言いました。「例えば、パリの街を歩いている2人の女性を想像して、その場面にふさわしい服装を考えるの」と。
私は目から鱗が落ちる思いでした。今まで、ただ1体ずつ「かわいい」「かっこいい」と思うだけでコーディネートされていると思っていたのです。
「美しいものを美しいと思う気持ちは、DNAに入っているのかもね」という彼女の言葉に、深くうなずいたのを覚えています。確かに、人が美しいと感じるものには共通点がある。その「美しさ」の本質を理解し、表現することが私たちの仕事なのだと気づきました。
この経験から、私はブログで「オシャレの法則」を連載し始めました。ドレッドヘアで入社してきたOさんなど、オシャレなスタッフたちの秘訣を言語化していったのです。とくにOさんは、渋谷店の看板娘になり、その独特なオーラは、いい意味で、近づきがたい空気を発していたようです。「カッコ良すぎて、話しかけられない」とおっしゃるお客様もいました。
私はファッショニスタたちに質問を投げかけました。「今日の服のテーマは何?」「今日はどのアイテムから選んだの?」「デニムの裾を折るとき、何か決まりごとはあるの?」
最初は戸惑っていたスタッフたちも、次第に自分たちの「無意識の知識」を言葉にすることを楽しむようになりました。私も彼らの答えを通じて、オシャレの感覚を磨いていきました。
例えば、Oさんは毎日違うバッグを持ってきていました。私は「全部に合う1つのバッグがあれば楽だろうに」と思っていましたが、Oさんは違いました。「その日の服のテーマに合わせてバッグも選んでいます。ちょっと違うなと思ったら、小物など、出先でも買い足すときもあります」と彼女は笑いながら教えてくれました。
この知識をお客様にも共有することで、驚くべき変化が起きました。今まであまりアクセサリーを買わなかったお客様が、「テーマ」を意識することでコーディネートを楽しむようになり、自然と客単価もアップしていったのです。
努力は報われました。2、3、4月の3か月間、ショッピングモール全60店舗中、前年対比1位の店舗として表彰されたのです。店長会議で成功の秘訣を話すよう求められたとき、私は胸が高鳴るのを感じました。数年前の自分では想像もできなかった光景です。
「私がこの会社に入社したのは2年前。アパレル業界の経験は全くありませんでした」。
すべてが初めての経験でした。失敗の思い出が脳裏をよぎります。商品知識の乏しさ、コーディネート力の下手さ、店長の仕事がわからないなど、挫折の連続でした。
「そんな時、ふと気づいたんです。私にしかできないことがあるんじゃないかって。それは、店長がインターネットで情報発信をすること。誰も見たことのない新しい形の店舗運営でした…」
結果として、売上は前年比167%を達成しました。誰もやったことのない挑戦。アパレル未経験だからこそ見えた景色があり、それが私たちの強みになった。その事実に、改めて気づかされたのです。新たな挑戦への期待と、チームへの感謝で胸がいっぱいになりました。
しかし、これはまだ始まりに過ぎません。2日間で10万円のセミナーで、私の人生は、もっともっと大きく変わっていくのです。
※こちらは当時の表彰状です。
■編集後記
渋谷店店長となり、1年6カ月目にようやく前年対比167%を達成! 渋谷マークシティ60店舗の中で3カ月連続前年対比1位の店舗として表彰を受け、「伝説の店長」と呼ばれていたとか。(笑)
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