★Grit & Glamor Epi.27 ホワイトボードに描かれた未来

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主人公の2回目のセミナー「出会いを行動に変える秘訣」にはリピーターやブログ読者が集まり、大成功を収めたことで講師としての自信が少しずつ芽生えました。その後、自分のオリジナルバッグが完成し、渋谷店に一時保管しましたが、副店長の厳しい言葉に「ここにはもう居場所がないのかもしれない」と不安を抱きます。そこで、メンターの金井さんに転職を相談し、新しい挑戦に向かう決意を固めました。母にも話すと理解を得られたものの、「これで本当にいいのか?」という疑念が頭をよぎります。最後の日々は、独自の接客ノウハウをまとめたDVDを制作するため、全力で取り組みました。


第10章:未来への扉が開くとき

10.1 シャンデリアが映し出す未来への道

会社を辞める決意を固めた瞬間から、未知の可能性が私の前に広がっていました。事業部の社長からは「堀口さんの考え方も理解できます。3月にお時間をください」という丁寧な返事をいただき、会社としてもネット戦略の強化を進める方針があり、私が力を発揮できる場を用意しようとしている様子でした。

そんな中、尊敬する取締役から思いがけないお茶のお誘いをいただきました。2年前、「できることと、やったことは違う」と本質的なフィードバックをくださった、あの取締役です。あの言葉で視界が開け、私は自分の意図を見直し、「今を生きる」ことの大切さを知りました。この恩人からのお誘いには、胸が躍る思いでした。

向かったのは、渋谷の映画館の一角にある、シャンデリアが輝き、赤いソファが並ぶ、渋谷らしからぬ雰囲気のカフェでした。大きな窓からやわらかな光が差し込み、落ち着いたインテリアは、マダムたちが集う隠れ家のような上品な空間。不思議といつも空いていて、静かに話をするにはぴったりの場所です。赤いソファに腰を下ろし、ゆったりとした雰囲気の中で会話が弾むと、尊敬する取締役が思いがけない提案を切り出してくださいました。


「堀口さん、衣食住のポータルサイトを運営してみたらどうですか?」さらに、「生き方の提案をしてみたら?」と続けられ、その言葉が私の心に深く響きました。これが、私のこれからの人生に大きな影響を与えるのではないか――そんな予感が胸の中にふつふつと湧き上がってきました。

席を立つ間際、取締役がふと微笑み、「退職しようとしている人をお茶に誘うのは、堀口さんが初めてですよ」とおっしゃいました。その言葉に、これまでの自分の努力が少しは認められたのだと感じ、胸の奥がじんわりと温かくなりました。

心はさまざまな可能性の間で揺れていました。しかし、迷いの中にもぶれない軸があったのです。接客やコーチング、セミナー、ブログ執筆に没頭しているときこそ、自分らしく、力強くいられると実感していました。そして、それが取締役からの「生き方の提案」というフィードバックにつながるのではないかと感じたのです。

メンターの金井さんは、この時期を「お試し期間」と教えてくれました。大きな転機には必ずそういう時期があると。「できることとやりたいことは一致していますか?」という問いは私の心に深く刺さりました。そして「この壁を解決せずに逃げると、また同じことが繰り返される」という言葉も、大きな示唆を含んでいました。


10.2 ホワイトボードに描かれた私の未来

2月27日。運命の日の朝は、晴れ渡る青空のように清々しい面持ちでした。RITZの面接に向かうため、私は自信に満ちた足取りで下北沢の商店街を歩いていました。入念に作り上げた履歴書と職務経歴書。アパレル店長としての実績、人気ブログランキング1位、取得予定のコーチング資格。自分史上最強の経歴書を携え、前のめりな気持ちで歩んでいました。

大学4年生の就職活動で訪れた新宿アイランドタワー。あの時と同じように、エレベーターで上がっていく間、心は高揚感に満ちていました。過去のアパレルの面接で青山の漆黒のビルに立った時の緊張感とは異なり、これまでの経験を通じて、社外での価値を確実に高めてきた自分を感じていました。

エレベーターを降りると、すぐに金井さんの弟さんが立っていて、温かな笑顔で迎えてくれました。緊張した面持ちで用意した経歴書を差し出すと、「堀口さん、すごいですね」と、その場で目を通してくださいました。私の自信作である最強の経歴書に、思わず胸が高鳴ります。

RITZの事務所に一歩足を踏み入れると、そこはまるで創造性が息づく空間でした。大きな窓からは柔らかな自然光が差し込み、ブラインドが美しい陰影を床に落としています。シンプルながらもモダンな白いホワイトボードが壁に設置され、ブラウンのソファがくつろぎの場を提供していました。オフィスとは思えない、まるでクリエイティブスタジオのような雰囲気です。これから、このボードに私の未来が描かれていくとは、この時はまだ知る由もありませんでした。

デスクの上にはペットボトルや書類が置かれ、日常的な仕事風景が広がっています。ここで働く自分の姿を、なんとなく思い描いていました。しかし、運命はまったく異なる方向へと私を導こうとしていたのです。

そのミーティングルームに入ってきた金井さんの第一声が耳に飛び込んできました。「堀口さんがRITZで働いているイメージが、全然できなかったんだよね…」

その言葉に一瞬戸惑いましたが、なぜかすぐに「そうですか。わかりました。独立します」という言葉が自然と口から出ました。以前、メンターから「潜在意識はすべてを知っています」と教わっていたため、イメージできないことは未来にないと直感的に理解できたのです。

その日、メンターは私の未来をホワイトボードに描き出してくれました。マインドマップのように、セミナー、コーチング、企業コンサル、情報商材販売など、次々とビジネスモデルを広げてくれたのです。そこには、私が想像もしていなかった新たな可能性が詰まっていました。

これまでの副業の実績も、独立への確かな土台となっていました。「もしかしたらRITZでも、マネジメントセミナーを頼むかもしれないよ」というメンターの言葉は、優しく、新しい道への希望を灯してくれました。

「あ、そうだ、堀口さんに特別にいいものをあげよう」

帰り際、メンターはそう言って立ち上がると、部屋の隅からシルバーに輝くアタッシュケースを取り出しました。洗練された佇まいのケースは、まるで映画に出てくるような重厚感を漂わせています。

「これはね、19万円かけて、1億円を作ったんだよね。潜在意識を騙すために」

私は首を傾げながら見つめていると、カチリという小気味良い音とともにケースが開かれました。そこに広がっていたのは、想像を遥かに超える光景でした。

整然と束ねられた札束。しかし、よく見ると通常の日本銀行券ではありません。そこには何と、金井さんの顔が描かれているではありませんか。上部には「金井銀行券」の文字が誇らしげに刻印されています。1万円札が、なんと1億円分。夢のような金額が、この一つのアタッシュケースに詰まっているのです。

「これが、1億円の重さだ!」とメンター。

まさにこれこそが、成功者の発想なのだと実感した瞬間でした。単なる妄想や願望ではなく、実際に触れることができる形にまで具現化する。そこまでの徹底ぶりに、私は完全に度肝を抜かれてしまいました。

「これ、あげるよ」

メンターはさらりとそう言って、1束を私に手渡してくれました。この異次元の発想から生まれた特別な「お金」は、その後、私の携帯電話の待ち受け画面となり、独立への大切なお守りとなったのです。

潜在意識を騙すために19万円という現実のお金を投資する。その決断力と行動力は、私に大きな衝撃を与えました。この日を境に、私の「お金」や「成功」に対する考え方は、大きく変わることになったのです。

この2月の出来事は、きっと私の人生の走馬灯の一場面として、永遠に記憶に刻まれることでしょう。1か月にわたる迷いの末、私は自分の道を見つけ出しました。未来はすでに決まっているのです。複数のキャッシュポイントを持ち、自由に生き方を提案できる人生。その未来に向かって、ただ前を見据え、一歩一歩進むだけです。


◆編集後記

渋谷の赤いソファーが特徴的なカフェは、まだ存在するのかどうか検索してみたところ、なんと当時のままの内部写真が見つかりました!

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