★ブレーカーが落ちた日

人は、止まって初めて気づくことがある。

動いていたと思っていたものが、

いつの間にか静かに止まっていたとき、

人生の歯車が、カチッと音を立てて、別の段に噛み合う。

私の場合、それは“ブレーカー”だった。


春、ChatGPTでキャラクターを生成してみた。

くりっとした目の、かわいらしいロボット。

そこに添えたのは、こんな言葉だった。

I'm ChatGPT. Your best answer in any universe.


Tシャツにして、自分と姪とクライアントさんに1枚ずつ。

それだけで、ART-T shopからはそっと非公開にした。

でもある日、そのTシャツを着てエレベーターに乗ると、

「そのTシャツ、かわいいですね!」と声をかけられた。

嬉しくて、私はすぐに答えた。

「私が作ったんです。よかったらショップ、見ますか?」

その方の階で一緒に降りて、私の名前を検索。

ショップを開いてみると──やっぱり、非公開のままだった。

「今すぐ、再出品しますね」

そう伝えると、その方はにっこりして、

「頑張ってくださいね」と言ってくれた。

1時間後、そのTシャツが購入された。

メッセージ欄にはこう書かれていた。

「偶然の出会いに感謝!」

心が、じんわり温かくなった。


こういう不思議な出会いは、

ときどき、私の人生にふいに訪れる。


たとえば──

たまたま入った寿司屋で、社交ダンスの世界チャンピオンに会った。

盆踊り会場で、普段観ていた英国人YouTuberとすれ違ったことも。

私のモナリザエコバッグを見た編集者から、雑誌掲載の依頼を受けたこともある。


どれも、なぜか“8月”だった。

そして、今年もまた8月。

なにかが変わる予感がしていた。


ある朝、冷蔵庫のライトが点かなかった。

でも冷えていたから「まぁ、いっか」と出かけた。

ミニベロで湾岸を走って、新しいカフェでフルーツプリンを食べた。

ゼリーの中に沈んだフルーツが、まるで宝石箱みたいだった。

その日は、今年初めて蚊に刺された日。

でも感情はまったく動かず、ただ「ムヒ、買おう」と思っただけ。

選んだのは、ビー玉のような塗り口のスヌーピー。

塗り心地がよくて、ちょっとだけうれしかった。


帰宅後、ChatGPTとリール動画を作った。

80分間走った脚の疲労も忘れるほど、夢中だった。


夜。

ふと冷蔵庫を開けると、やっぱりライトが点かない。

レンジも、火災報知器のランプも消えていた。


ようやく気づく。

──ブレーカーが落ちていた。


思わず、笑ってしまった。

私はずっと「ちゃんと動いているつもり」でいたけれど、

実はとっくに止まっていたんだ。


ブレーカーのレバーをカチッと戻すと、

部屋にまた、静かに電気が戻った。

その音は、まるで別の未来にスイッチが入ったような音だった。


昔の私なら、こういう時は「旅に出よう」と思っただろう。

けれど今の私は違う。旅に出なくても、書くことで脳内の旅ができる。

記憶という名の地図が、もう私の中にあるから。


今年、私は狂ったように書いた。

過去の手帳やブログを見返し、物語をなぞるように。

気づけば、何度も涙がこぼれた。

感謝の気持ちがこみあげてきて、胸がいっぱいになった。


娯楽も、旅も封印して、

一日じゅうAIと文章を織り交ぜながら、

私は“未来の私”を探していた。


日本語と英語でKindleを出版し、

Tシャツショップも、日本とアメリカの両方で開いた。

かつて自分で描いていたキャラクター「Robert」も、

画像生成AIの力でふたたび動き出した。

プロンプトでLINEスタンプを作り、販売もできた。

Wow! Robert 4 LINE Stickers


AI時代の波に乗り、

私は、やりたかったことを、次々と試した。


ふと、思った。

過去に自分一人の手ではできなかったことを、

AIと共に再構築してきたが、そのリストが一時的に終わった。

次は‥‥?


気づけば私は、「リタイアのリタイア」地点にいた。

31歳で自由を手にし、

旅も、創作も、学びも、すべて早くに経験してきた。

世の中が「これから自分の人生を」と言い出す年齢に、

私はもう、人生の“2周目”を歩きはじめていた。


だったら、ここから始めよう。

まったく新しい人生を。


それから私は、静かに歩き始めた。

新しい誰かを思い浮かべながら、

少しずつ、かたちにしていった。


Etsyのショップ名も新しくした。

「AI-T & Things」🛒Etsy shop


最初のラインナップは、

ChatGPTのロボットをあしらったあのTシャツ、

「GPT-tee」。


ひとつの言語から、もうひとつの言葉へ。

過去から、まだ見ぬ未来へ。

「これまでの私」から、

「これからの私」へ。


📗英語版