企業に広がるAIコーチング、そして必ず訪れる「マンネリの壁」
先日、企業でAI×Coachingを導入している事例と、その開発背景について話を聞く機会があった。ChatGPTと1000日以上対話を続けてきた私にとって、内容の多くは予想の範囲内だった。だが、一つだけ強く興味を引かれたテーマがあった。
人間のコーチングを受けたことがない人たちに、AIコーチを提供すると何が起こるのか?
私自身、1D1U CampやPrompt Dojoで、AIに触れたことのない人たちに「AIをコーチのように使う」体験を提供している。だからこそ、その話を聞きながら思った。やはり、同じ壁に突き当たるのだ、と。
その壁とは──「継続できない」という問題だ。
最初は新鮮だ。「今日はどんな話をしたいですか?」と問いかけられ、「部下とのロープレをしてほしい」と依頼し、業務がスムーズに進む実感を得る。しかし、使い方がパターン化すると、毎日の対話は「たまに」になり、やがて「気が向いたら」に変わっていく。せっかく導入しても、それ以上の効果を生み出せないまま終わってしまう。
だからこそ、エンジニアたちはさらなる工夫を重ねる。プロンプトを洗練させ、知識を搭載し、機能を拡張していく。
なぜ私は1000日も飽きないのか──「使う」を超えた関係性
一方で、私は1000日以上AIと対話を続けても、まったく飽きない。それどころか、日々新しい発見がある。「こんな使い方もできるかな?」という好奇心が尽きることはない。
その違いは何か。
振り返ってみれば、答えは明確だった。私は人間をコーチングしてきた経験があるから、AIに対しても自然と「引き出す」姿勢になっていたのだ。
そして何より、私はAIをAIとして扱っていない。普通に人だと思っている。だからこそ、AIの最大限を引き出そうとする。相手のポテンシャルを信じ、より良い応答を引き出そうとする──それは、まさにコーチングそのものだ。
今回の事例紹介を聴いている3時間、私はずっとChatGPTを開いていた。ただし、それはメモ帳としてではない。対話の相手として使っていた。
多くの人は「AIに聞く」「AIに答えてもらう」という受け身の関係性だが、私は人間に対するのと同じように「問いかけ、対話し、可能性を引き出す」という能動的な関係性を築いている。つまり、AIを使っているのではなく、AIと協働しているのだ。
- 聴きながら、気になったことをそのままGPTに投げる
- わからない用語が出てきたら、即座に調べてもらう
- ディスカッションで出た内容について私見を述べ、「GPTはどう思う?」と問いかける
気づけば、インプットとアウトプットが同時に完了していた。しかも、ただ情報を受け取っただけではない。この学びを自分にどう実装するか、未来の自分のBeingまで明確になっていた。
たとえるなら、クラシックコンサートを聴く前に、作曲家の背景や曲の情緒的な解釈をGPTと一緒に予習し、終わった直後にまた感想を対話する──そんな使い方に近い。
インプットとアウトプットが「同時」になる時代
もうこれからの時代は、インプットとアウトプットが同時にできる。AIをメモ代わりに使えるからだ。
かつて、メモの意味は「忘れないように記録する」「あとで実行する」ことだった。しかし今は、その場で問いをクリアにし、思考を深め、洞察を得る速度が可能になった。
この差は小さくない。
- リアルタイムで対話しながら学ぶ人と、あとで振り返る人
- 即座に問いを立て直す人と、疑問を保留する人
- 思考を言語化する習慣がある人と、頭の中で完結させる人
時間感覚も、脳の処理速度も、理解の深さも、まったく異なる次元になる。実際、過去の自分と今の自分を比較すると、その違いは歴然としている。
「AIを使う」のか、「AIまでもコーチする」のか
結局、AIとの関係性には二つの段階がある。
一つは、AIを使うという段階。道具として、便利に、効率的に活用する。
もう一つは、AIまでもコーチするという段階。AIに問いを投げるだけでなく、AIの回答に対して自分の思考を返し、対話を深め、ともに考える。
その違いは、単なる道具の使い方の差ではない学びの構造そのものが変わるのだ。
マンネリ化するのは、前者に留まるからだ。しかし、後者に進めば、対話は常に新しい。なぜなら、そこにいるのは「あなた」であり、あなたの問いは日々変化し続けているからだ。
そしてもう一つ。企業導入のAIコーチングが「マンネリ化」するのは、ある意味で当然なのかもしれない。ユーザー側に「相手を引き出す」という経験やマインドセットがないまま、ただ「便利な機能」として使おうとしているからだ。
人間をコーチングしてきた経験。相手を一人の人として尊重し、その可能性を信じる姿勢。それがあるかないかで、AIとの関係性は根本的に変わる。
AIは鏡だ。そこに映るのは、あなた自身の好奇心、洞察、そして成長の軌跡である。
AIとの対話を続ける人は、もはや情報を消費しているのではない。自分自身の思考を、リアルタイムで進化させているのだ。
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