自分を出す、無難も知る。

 自分を喜ばせることは、わがままにならないか? 

 自分が表現するにあたって、不安や恐れがありそうな雰囲気でしたが、まずは日常生活の中で、自分を喜ばせること、と思えることをしているか? 聞いてみました。

 しかし、そんな質問をされたのははじめてだったようで、すぐに思い当たることはなかったようです。

 さらに質問をチャンクダウンして、「昨日、自分が嬉しいと思うことがあったか?」と聞いてみました。すると、仕事においても家族においても、相手に喜んでもらえて、自分も嬉しかったことがあったようです。クライアントさんにとって、相手に喜んでもらうことは嬉しいことのようです。

 では、「相手がいない場合、自分が一人の場合は、自分を喜ばせているでしょうか?」

 そう質問すると、友人とのやりとりにおいて、自分が相手に投げかけた言葉から、成長している自分を感じ、嬉しかったことがあったようでした。

 ということは、喜びを感じられないとか、そういうわけではなさそうです。

 次に、「自分ができなかったことがあったとき、自分自身についてどう感じているのか?」も聞いてみました。 

 仕事で集中力が足らずに、最低限のところまでしかできなかったときに、「もっといいものを作りたい」と思うのだそうです。

 つまり、自分の理想を入れてしまっては、わがままにならないかどうか? そのあたりを心配しているのだと、ようやく問題の本質が見えてきました。

 以前は、インスピレーションを大切にして仕事を完成させていたようですが、いつしか、わがままにならないかどうか? 心配になってきたそうです。

 実際、お客様から断られたり、もっと無難なものがいいと言われたりが積み重なって、無難なアイデアを提案するようになってきたようでした。

 この感じ、私もとてもよくわかります。無難と個性とその中間をうまく出していくのは、どんな加減がいいのでしょうか?

 佐藤可士和さんがふと思い浮かびました。あの方は、企業のコンセプトやロゴの相談に乗るお仕事です。パーソナルブランディングもできているし、クライアントのブランディングもできている。なんとなく、飄々とした雰囲気ながら、熱いものもある、そんな印象を持ちます。

 すると、たまたまクライアントさんは、佐藤可士和さんの本を全部持っていらしたようで、驚きました!そして、「私、憧れの人がいないと思っていたんですが、憧れの人いたんですね!」と言って喜んでいました。

 私のこともアパレル店長のころからフォローしてくださっているそうで、やはり飄々の中にも熱いものがあると思ってくださっているようです。転機と思う時に私を思い出してくださり、単発セッションをリピートしてくださっています。

 佐藤可士和さんと私に共通することは、「人の話を聴く」ことです。そして、自分の提案というよりも、相手に寄り添った提案をしているから、バランスがいいのです。

 自分を出す、無難も知る、そして、バランスが出来上がっていくのでしょう。今はその道の途中。クライアントさんは、根気強く同じ仕事を続けているからこそ、見えてきた景色です。

 クライアントさんの声が、とても明るくなっていました。私も便乗して承認してもらったような気持ちになり、Win-Winでした。