あまりやる気のない人たちに、どう伝えたらいいんだろう?

 半年前くらいから新しい場所で働き始めたそうなのですが、自分の本来の目的からは外れて、職場の人間関係が崩れていることに、エネルギーを持っていかれていることについて、考えてみたいとのことでした。

 立場としては、管理職です。会社から結果を出すように言われているので、アルバイトたちに改善を求めるために、厳しいことも言わなくてはいけない。やんわりと言ったつもりが、「言い方がきつい」と上司伝えに言われて、それから言うことを我慢するようになり、言ってもわかりそうもない相手は、むしろ口を聞かないでいるようになっているそうです。こんなに、はっきりと言われる職場と言うのも初めてで、ちょっと驚いたようでした。
 こんなに集中攻撃されるということは、自分のことも責めているのかな? と鏡の法則で考えてみようと思ったようですが、そこで思考は止まっているようでした。

 ああ言えば、こう言われ、でも、結果を出すために、言わなくてはいけないこともあり、上司とも相談しながらやってきたそうなのですが、その上司も「どう伝えたらいいんだろう?」と頭を悩ますことが多く、あまりやる気のないアルバイトたちが多いと感じているようでした。

 だんだんと話しながら、常にスタッフには、「なんて言ったら伝わるのか」という問いが頭の中でリフレインして、例えば、直接「おしゃべりしないでください」というのを、おしゃべりさせないように、もう一方の人へ仕事を振るとかして、工夫しているようでした。

 スタッフの話を聞いてから、「でも」と自然とでてしまっていたようで、スタッフから、「何を話しても、でもと言われるので、あの人には、素直に話したくありません」と、スタッフからのクレームを上司からフィードバックされたようです。

 昔は、もっとスタッフたちの、得意なところ、いいところを伸ばそうとする見方が出来ていたのに、ここの人たちは、ほとんどモチベーションが低く、うまくいかないように感じているとのことでした。

 また、半年前に出店したばかりなのに、実はもう閉店するそうなのです。クライアントさんは、「あと2カ月だから頑張りましょう」とスタッフに伝えて、最後くらいはしっかりできたらいいなと思ったそうなのです。
 しかし上層部は、「閉店のことを今知らせたら、ますます手を抜くだろうから、言わないように」との見解だそうでした。会社全体的に従業員に不信感を抱いているような発言の雰囲気です。クライアントさんも、その空気感に巻き込まれてしまったのでしょうか? 

 ここまでの状況をお聞きすると、確かに振り回されいらっしゃる感じです。どうすれば、自分に戻っていけるのでしょうか?

 「あと2カ月ということで、クライアントさん自身が、自分のやってみたいようにすることについてはどうか?」と質問してみると、「上司が戦略を練る立場なので、私はなにもやっていない感じもしているんです。これまでの職場では、やりました感があったのに…。今は、やっていない自分を責めてしまうこともあります」と。

 クライアントさんは、続けて言いました。「私は、結果に執着しすぎですね。私は、お客様目線で考えますが、みんなは、お客様目線でないから、その差なんですかね? 見えているところが違うから、言われれば不満になるのかな?」と。

 クライアントさんは、できていないところばかりに目がいきがちだったので、できているところにも焦点を当ててみました。

 「何かお店で、不都合なこと起こったことありますか? みなさん、最低限のことは出来ているんじゃないですか。安全に店が開いて、お客様がスムーズにお買い物ができて、それでいいんじゃないですか?」

 「そうですね。最低限は大丈夫です。そう言えば、アルバイトの人が、『隣の店は忙しそうだけど、ここは暇そうだったので、ここにしたんです』と言ってましたよ(笑)」

「なるほど、そう言っていたんですね。私なら『あはは、よく観察していますね、忙しすぎるのも大変ですもんね』と返すと思いますよ。そう考えるのもわかると」

 スタッフのその発言に「え?これから働くというのに、よくそんなこと言えるなぁ。」と反応するのか、「そういう価値観の人なのか」と思い、対応するのか。たった一言の受け取り方で、受け取るほうの感じ方が変わってくるのです。



「どう伝えたらいいか?」
本当に伝え方なのでしょうか?
伝え方が見つかれば、円滑になるのでしょうか?

 私は、根本的なところは、そこではないと思っています。コミュニケーションは、セットアップで決まります。信頼関係を 築くことが、かなり大事なポイントなのです。それは、伝える前段階のことです。


「このお店、空いているから、ここがいいな、と思いました」
「そうですよね。よく、観察してますね~。忙しすぎるのも大変ですもんね」
と、相手の気持ちを分かってあげることで、もっと話してみようと相手も思うのです。

 そのとき、たまたまクライアントさんが、最近、気持ちを分かってあげたことで、相手がいいパフォーマンスを発揮したという話を思い出していました。

 隣のお店は、かなり売上アップをされたそうなのですが、そこの責任者の人が、何千人もの前でその経験についてスピーチを指名されたそうです。その人は、人前で話したことがなかったから、とても困っていたようでした。
 そんなとき、クライアントさんは、1時間ほど人前で話す経験を去年初めてしたという話を、その人にしたそうです。そうしたら、勇気が湧いてきたそうで、原稿にアドバイスをしてほしいと頼まれて、自分も以前人にしてもらったように、聴衆がどんなことを聞きたいか? という視点から、細かなアドバイスをしたようでした。自分の経験が生かされて良かったな! と思ったそうです。
 そして、なんと、スピーチをした人は、優勝してしまい、ハワイ旅行が贈呈されたようでした。(笑)

 クライアントさんは、親身になって、寄り添うことができる人です。なのに、結果に執着しすぎて、本来の自分のよさも消えていました。
 自分ができていたことを認識できたことで、クライアントさんも元気が戻ってきました。

「なんで、こんなこと言うのかな…、で終わっていて、想定外を受け容れず、理解しようともしていなかったですね…。私は、この職場に来て、本当に自分は話が聴けていないなって思いました。そう気づけた時、話を聞こうと、自分の考えは、言わないように黙ってみました。我慢に近いものがありましたが。で、最後に自分の考えを相手に言うようにすれば、自分も後からすっきりするんでしょうかね」とクライアントさんがおっしゃいました。

 クライアントさんは、自分の言いたいことを抱えながら、相手の話を聞こうとしているようです。もっと、ただ聴くこともできるのではないでしょうか? 自分が言いたいことさえ、湧いてこなくなる聴き方です。それが、クライアントさんのこれからのテーマになりました。

 伝える前に、信頼関係はどうか? 順序が逆にならないように注意が必要です。

 それにしても、上司がいて、クライアントさんがいて、スタッフという構成は、一見、やりにくい感がありますが、ニュートラルにとらえるならば、スタッフが直接上司に言えるし、それを上司がクライアントさんに包み隠さずフィードバックしてくれる環境であったということで、大切なことに気づけたのですから、すべては必然なのでしょう。
 自分を取り戻し、成長好きなクライアントさんにとっては、テーマも見つかり、スッキリした気分なられたそうでよかったです。


 今日はこちらの質問はいかがでしょうか?

話を聴けていますか?