★Grit & Glamor Epi.11:暗闇の中で電気のスイッチを探す。

 いろいろな世界と自分自身を見つける方法はたくさんあります。GoogleやChatGPTが登場する前に私たちがどうやってそれを行っていたかを忘れないようにしましょう。情報を得てから行動するのではなく、行動してから情報を得ていたのです。

◎前回のあらすじ

4000万円の売上を達成した私は、自分へのご褒美としてプラダのバッグを購入し、成功を実感しました。その後、成功する人々が運動するイメージから、恵比寿のジムに通い始めましたが、9月末の売上目標は達成できませんでした。

10月初旬の神戸での店長会議では、渋谷店の低迷を指摘され焦りを感じました。しかし、名古屋のH店長の励ましの言葉が救いとなり、スタッフとともに横浜店を超える目標を共有し、一体感を感じました。渋谷店のバックヤードでの朝礼では、スタッフたちに悔しさと決意を語り、新たな挑戦への第一歩を踏み出しました。

ブログのためにインプットを増やすため「気づきノート」を始め、H店長の影響を受け、自信を持ち始めました。彼女のスタッフへの熱心なスカウトを見て、自分も同様にチームを導く姿を未来に描きました。
 

第5章 自己投資


5.1 運命の講演会

いつも購読しているメルマガに『加速成功』という大胆なタイトルの本が紹介されていました。説明文を読むと、著者は独立後わずか1年半で、サラリーマン時代の9倍もの年収を達成したというのです。「誰でも短期間で成功できる」—その言葉が私の心に響き、すぐさま書店で購入しました。

ページをめくるたびに、私の中でエネルギーが湧き上がるのを感じます。そんなある日、知人のNさんからショートメッセージで思いがけない連絡が。

「『加速成功』の著者の無料講演会があるんだけど、興味ある?」と。読んだばかりで、著者に会える機会を引き寄せました。こういうとき店長は便利です。自分でシフトをお休みにして、参加を決めました。
講演会当日、会場に足を踏み入れると、そこは熱気に包まれていました。満席の客席、ほとんどが男性です。20代の女性は私だけかもしれません。

突然、会場が静まり返りました。ステージ上に現れた著者のDさん。彼は情熱的に語り始め、その言葉の一つ一つが心に刻まれていきます。

「自分を信じ、他人の否定的な言動に惑わされない」
「将来の望ましい自分の姿を常にありありと、微に入り際に渡り想像する。そうすると想像通りの人となる確信をする」
「言葉は力であり、継続は力になる」

Dさんのプレゼンの勢いとオーラーに圧倒されました。

講演が終わり、興奮冷めやらぬ中、ふと気づきました。今まで会社の研修がないことに不満を言っていた自分。でも、こうして自ら学びを求め、それを会社に還元していく—そんな姿勢こそが、本当の成長への近道なのではないか。会場を後にしながら、私の中で何かが変わり始めたのを感じました。
 

5.2 トレンドの発信地

ブログを始めて2ヶ月が経ち、私は「ネタ探し」という新たな使命に目覚、繊研新聞と日経MJ新聞という業界紙を購読。アパレル業界の最新情報をキャッチしようと奮闘していました。

ある日、「ファッショントレンドセミナー」の広告が目に留まります。繊研新聞主催とWWD主催の2つのセミナーに即座に申し込み、休日を利用して参加しました。
会場は、まるでバレエの発表会が行われそうな大きなホール。アパレル業界人で満席の中、舞台上にはクールな装いの講師と大きなスクリーンが見え、「私もついにこの世界の一員になったのだ」と実感しました。

講師は、きっと業界では有名な方なのでしょう。流暢な口調で、ミラノ、パリ、ロンドン、ニューヨークのコレクションについて解説していきました。各ブランドの写真を見ながら、トレンドの要点を話す講師の言葉に、私は必死でついていきました。

2005 SSパリコレクション:ナチュラルなフェミニン。2005 SS ミラノコレクション「サファリ、フォークロアー」など、用語の意味がよく分からないこともありましたが、メモを取り、絵を描きながら理解に努めました。
このセミナーで、トレンドの源流がパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンのファッションウィークにあることを初めて知りました。9月のショーで翌年の春夏コレクションが発表され、そのテーマに基づいて各ブランドがデザインを起こすのです。だから2月には春物が店頭に並ぶのだと納得しました。

「アパレル業界の相対性理論だ」と思いました。一般常識とは異なる時間の流れを持つこの特殊な世界。そう思った瞬間、店長就任直後に社長から言われた言葉を思い出しました。「VOGUEを読みなさい」と。

当時の私は、OL向けのファッション誌で満足していましたが、それではもう遅すぎるのだと気づきました。確かに、そういった雑誌で私が店長を務める銀座店が特集されたこともありました。しかし、それは顧客目線。販売員は、その先を行く必要があるのです。

トレンドを理解し説明する力、売場にある服のストーリーを語る能力、そして何より洗練されたコーディネート力。私の個人売上は良好でしたが、まだまだ伸びしろがあると痛感しました。

この新たな学びを得て、渋谷店店長ブログは劇的に変化していきました。開始から3ヶ月後には、新商品情報や人気アイテムの在庫状況、店頭スタッフの着用写真まで掲載するようになりました。

ある日、常連客の一人が「このブログを見れば、いつ店に行くべきか分かる」と言ってくれました。夢見ていた「雑誌のようなブログ」が、現実のものになりつつあったのです。


 

5.3 セミナーから見えた未来:今と将来をつなぐ気づき


2005年の秋、澄み切った空気の中、私は心躍らせながらセミナー会場へと足を運びました。ついに、私のマインドセットを変えた「幸せな小金持ち」小冊子の著者、本田健さんのセミナーに参加する日が来たのです。

会場に入ると、40代以上の参加者が目立ちます。当時38歳だった本田さんに比べ、29歳の私はずいぶん若い方だと感じました。緊張しながらも、これから得られる学びに胸が高鳴ります。

セミナーが始まり、本田さんの柔らかな口調に会場全体が引き込まれていきます。特に印象に残ったのは、「人生を幸せに変える3つのこと」。
「メンターに出会う」「決断する」「行動する」

この言葉が、スクリーンに大きく映し出されました。私は必死でメモを取ります。
さらに本田さんは続けます。「ワクワクしてすぐに突っ走れる人は、わずか1%。多くの人は、ワクワクしながらも恐れを感じるものです」。

その言葉を聞きながら、私は内心でニヤっとしました。「私はきっと、ワクワクしてすぐに突っ走れる1%だろう」と。

実は、自己啓発本を読むたびに、新しい知識を得るというよりも、「自分はそういう考え方をしている」ことを言語化してもらえる感覚がありました。それが心地よかったのです。

日経MJ新聞には、様々なマーケティングセミナーの広告が並んでいました。著名なベストセラー作家のセミナーも。「次はあれに参加しよう」と、早くも次の参加したいセミナーが決まりました。

このマーケティングセミナーは、すぐに実践できる宝の山でした。「お客様にどう購買を動機づけるか」「お客様を逃がさないシステム作り」「お客様との人間関係の構築方法」など、店長としての顧客戦略に直結する知識ばかり。「明日からすぐに試してみよう」そんな意欲が湧いてきました。

会社に勤めていることの素晴らしさを、改めて実感します。月に何千万という売上を、自分のアクション次第で大きく膨らませられる。それも、給与を頂きながら。ここで大きな成果を挙げれば、自分の市場価値を高めることにもつながることに感謝の気持ちも湧いてきます。今の努力は、将来どのようなキャリアを選択しても、必ず良い未来につながるはずだ。そう心から思えました。

ふと、私は店舗で一緒に働くスタッフたちのことを考えました。彼らも同じように、今の仕事と未来をどうつなげるか、という意識を持てば、現在の仕事により大きな価値を見出せるのではないだろうか。

例えば、顧客づくりの経験は、どんな業界に進んでも役立つはずです。在庫管理や売り場づくりの経験は、将来自分のお店を持つ際にも活かせるでしょう。チームワークやリーダーシップの経験は、どんな職場でも重宝されるはずです。

このように考えると、今の仕事は単なる日々の業務ではなく、将来への投資であり、自己成長の機会なのだと捉えられます。そう意識すれば、日々の仕事にも新たなやりがいが生まれるのではないでしょうか。

私は、この考えをスタッフと共有したいと思いました。彼らが今の仕事に誇りを持ち、将来への希望を抱きながら働ける環境を作りたい。そうすれば、店舗全体の雰囲気も、お客様への対応も、きっと良い方向に変わっていくはずです。スタッフ一人ひとりが、自分の未来と今の仕事をつなげて考えられるような、そんな機会を作ろうと思い始めました。
そういえば、社長はいつも「夢は何ですか?」と私たちに質問していたことを思い出しました。いつも答えられず、歯がゆい思いをしていましたが、夢を叶えるセミナーに参加するたびに、社長の考え方も次第に理解できるようになってきたのです。
 

■編集後記

まだSNSのない時代でしたので、こういったベストセラー作家の無料講演会があるなんて、知り合いのつてでたまたま知ることができ、ラッキーでした。この加速成功の著者から、のちにメンターとなる金井さんを紹介されることにつながるのです!
表紙がまたバージョンアップしました。

  
日本語版と英語版です。英語版のタイトルに、「SHIBUYA」と入れたことで、外国人にアピールを狙っています。(笑)