★Grit & Glamor Epi.17:こんな自分なのに、憧れの存在へ

まるで目が覚めているのに夢を見ているような、不思議な体験をしたことはありますか?その瞬間を思い出してみてください。それは、私たちの未来を形作る、稀で特別な時間なのです。

◎前回のあらすじ

5月末、私はビジネス誌『PRESIDENT』の発売を心待ちにしていました。社長と『加速成功』の著者D氏が同じコーナーでインタビューされていたからです。6月4日、私はカリスマ美容師・金井豊氏が経営する有名サロン「RITZ」を訪れました。普段新規を受けない金井氏に、特別に髪を切ってもらえる機会を得たのです。ロサンゼルスのセレブにインスパイアされたヘアスタイル提案や、自分に合ったカラーアナリシスのアドバイスを受け、自分の新たな可能性に気づきました。この体験を通じて、私は外見だけでなく内面にも自信が芽生え、輝かしい新たな人生の一歩を踏み出したのです。

7.3 運命の予兆

人生の大きな転機となると確信をしていた食事会の前日、思いもよらぬ出来事が起こりました。年に数回しか渋谷店に姿を見せない社長が、突如として現れたのです。その姿を見た瞬間、私の心臓は大きく跳ね上がりました。

以前、同じこの場所で社長から厳しい言葉をいただいたことが、鮮明に蘇ってきました。「まるで学芸会みたいだね」。当時の渋谷店のウィンドウディスプレイを見た社長の言葉は、今でも耳に残っています。その言葉に落胆しながらも、社長は私を109の店舗へと連れて行ってくださいました。

あの日、社長は熱心に店舗の在り方について、私に多くの問いを投げかけてくれました。その時は戸惑いと不安でいっぱいでしたが、今思えば、あの日の厳しくも温かいレクチャーが、現在の成功につながっているのだと実感します。感慨深さと共に、社長への感謝の気持ちが込み上げてきました。

そんな思いを抱えながら、私は明日の食事会のことを思い出しました。成功者たちとの食事会。この胸の高鳴りを抑えきれず、つい社長に話してしまったのです。

「実は明日、すごい方たちとご飯に行くんです」
私の言葉を聞いた社長の顔に、にやりとした笑みが浮かびました。その表情に、何か重要なことを教えてくれそうな予感がしました。
「ほう、それはいいね。じゃあ、いいことを教えてあげよう」社長は少し身を乗り出して続けました。「どうやったら、そういう人たちに興味を持ってもらえて、次も会ってもらえるか、わかるかい? そもそも、なんで会いたいって言ってきたんだろうね?」
その問いかけに、私は少し戸惑いました。「うーん…セールスが上がってきたからですかね」と、曖昧に答えました。本当は「ブログの効果です!」と言いたかったのですが、それは会社に内緒で始めたことでしたから、口が裂けても言えません。その時の私の心臓の鼓動は、きっと社長にも聞こえていたことでしょう。

社長はいつものニヤッとした表情で、重要なメッセージを私に伝えてくれました。
「とにかく、自分のことを話しなさい。もうひとつは、相手の弱点を見抜いて、そのことについて話しなさい」

その言葉は、まるで魔法の呪文のように私の心に刻まれました。成功者との食事会に舞い上がっていただけの私に、未来への扉を開く鍵を授けてくれたのです。
1年前、社長とのミーティングは気まずさでいっぱいでした。しかし今、こうして貴重なアドバイスをもらえるなんて、想像もしていませんでした。社長は常に的確なフィードバックと問いかけで私を導き、絶妙な距離感で見守ってくれていたのかもしれません。その気づきに、胸が熱くなりました。


いよいよお食事会当日。スタッフたちの献身的な協力のおかげで、計画通りに棚卸を進め、8時半には店を出ることができました。渋谷から程近い青山へ、私はタクシーに乗り込みました。

車窓に映る夜景を見ながら、これから会う成功者2人のことを考えました。「何を話せばいいのだろう? 社長から教わった2つのポイントをうまく活かせるだろうか? 次にまた会ってもらえる存在になれるだろうか?」不安と期待が入り混じる中、目的地に到着しました。

お店に入ると、落ち着いた照明と心地よい音楽が流れる空間が広がっていました。セミナー主催者のDさんは私の正面に、憧れの美容界のカリスマ・金井さんは、私の横に座っていました。緊張で背筋が伸びる中、「なぜ私がここにいるのだろう? どんな態度でいるべきなのだろう?」と考えていると、金井さんが突然、やんちゃな調子で言いました。
「生意気じゃないとだめだよ」

その言葉に、私の緊張は一気にほぐれました。「そうか、ありのままの自分でいいんだ」と思えたのです。

勇気を出して、私は20代のいろいろな転機になった出来事を話し始めました。するとびっくりしたことに、金井さんとの共通点がいくつも見つかったのです。直感を大切にすること、目標に向かって突き進むこと。さらに、兎年でうお座という星座まで一緒だと分かり、一気に親近感が湧きました。

「こんな偶然があるなんて!」心の中で思わず小さく叫んでしまいました。私はこうした運命的なシンクロニシティを、宇宙からのサインだと捉えるタイプなのです。実際、フード業界でトップの会社を志望した理由のひとつも、創業者と私の誕生日が同じ3月13日だったからでした。こんな偶然が背中を押してくれるように感じるのです。

話が弾む中、突然金井さんから驚くべき提案がありました。

「今度、渋谷店とRITZで、コラボで何かしようよ!」

その言葉を聞いた瞬間、叶ったら最高すぎる! と思う一方で、そんな夢のような話に、現実感がありませんでした。私はただの店長。会社を代表するようなコラボレーションの決定権はありません。でも、この機会を逃したくない。そう思い、「金井さんのRITZとコラボをする」と、強い決意を込めて手帳に書き留めました。

そして、私に会いたかった理由がもう一つ明らかになりました。
「ファッションブログランキング1位なんでしょ。俺は書くことが苦手だから、うらやましいよ」と金井さんが言ったのです。
その瞬間、社長の言葉が蘇りました。「相手の弱点を見抜いて、そこについて話す」。まさにそのシナリオ通りの展開に、内心でガッツポーズをしてしまいました。

食事会が終わりに近づく頃、スタッフからメールが届きました。「無事に棚卸しが終わりました! 最高記録の22時終了です!」その報告に、感謝の気持ちで胸がいっぱいになると同時に、現実世界に引き戻された感覚がしました。

帰り際、「また会えるのかな?」という思いが頭をよぎりました。まるでシンデレラになったような、夢のような時間でした。そう考えると、前日に現れた社長は、魔法使い。そう考えてみると、奇跡が起こる前触れの象徴のようです。

この出会いが、私のこれからの人生にどんな影響を与えるのか。期待と不安が入り混じる中、家路につきました。この夜の出来事が、私の人生の新たな章の始まりになることを、心の底から感じていました。

家に帰り、この日を忘れないよう、ブログに感じていることを綴りました。

* * * * *
2005年6月8日

こんな機会は初めてでしたので、自分の事について話すのも精一杯で。経営者、それもカリスマ級の方の考え方に触れることが出来たのはよい経験でした。

もっと自分の夢について具体的に語れる人間になりたい! と思ったのが、率直な感想です。思ったらきっとなれそうなので、毎日意識して過ごしていきたいです。自分の夢が語れたら、「やろうよ!」と言ってくれる人も現れます! 凄く大切なことなのです。
ひとつ気づいたのが、私はマネジメントが得意だと思っていたのですが、そちら側ではないと、直感的に思われていました。それはブログを書いていることもそうですし、自分を表現していくタイプだからということです。新しい発見でした。

金井さんは、シンクロニシティを大切にし、自分の人生の流れを読んで、ビジネスの展開を考えていたり、そして一番はやはり、人脈という事です。色々な人が繋がって、何かが生まれていきます。

ヒットするものもすべて戦略ありきです。時代の流れを読むのも超一流です。未来のイメージを膨らませる力も半端ないです。今、私に不足している部分・・・自分の夢を語ること…宿題です。

* * * * *
夢のような時間を現実にするために、私は具体的な行動を起こそうと決心していました。RITZとのコラボレーションをどう実現するか、そして再び機会を得るためにはどうすればいいのか、頭の中で何度もシミュレーションしていたのです。
しかし、私が動き出す前に、現実の方が先に動き始めました。

翌日、ランチ休憩から戻った私に、スタッフが思いがけない報告をしてくれました。
「店長、金井さんがいらっしゃいましたよ。外出中だとお伝えしたら、『わかりました』とおっしゃっていました。」
私は驚きと期待が入り混じった気持ちで、胸がざわつきました。成功者の行動の速さを目の当たりにしたのです。ビジネスセミナーで名刺を交換した方々も、すでに何人も渋谷店を訪れてくれていました。言葉を行動に移すことが当然の世界で、独立している人たちの強靭な自己基盤を改めて実感させられました。

しかし、特に金井さんの行動力には驚かされました。なんと、わずか12時間以内に渋谷店に足を運んでくださるとは! けれども、タイミングが合わず直接お会いできなかったことが残念でなりませんでした。このままでは終わらせたくないと思った私は、どうにか繋がりを保とうとメールを送ることを決意しました。

とはいえ、問題が一つありました。金井さんの名刺は手元になく、連絡先がわからなかったのです。そこで、お食事会をセッティングしてくださった秘書の方に連絡を取り、金井さんのE-mailアドレスを教えていただきました。そして、感謝の気持ちを込めたメールをできるだけ早く送信しました。
しかし、期待していた返信は7日間も来ることはありませんでした。

■編集後記

メンターとなる金井さんにお会いする前日に、アパレルの社長が渋谷店にいらしたことは、やはり「未来は決まっている」と思わされる出来事でした。「2回目も会ってもらえるか?」こうして、ビジネスをしていく中で、本当に大切なことだと実感しています。
雑誌掲載されるモナリザバッグを見に来られた方が、私のショップに次も来ていただけるように、準備をしなくてはならないのです。(笑)