『習慣のシンフォニー 』Epi.7:迷い、出会い、そして見つけたもの──ひとり旅のサプライズ

地図に裏切られ、道に迷い、孤独に涙し、それでも出会いと偶然がすべてを彩る。

ステップ 3──初めての海外ひとり旅:プロヴァンスの冒険

2011年、私はついに海外ひとり旅デビューを果たしました。

それまでの私は「ひとり旅なんて寂しすぎる、絶対に無理」と思い込んでいました。独立して自由な時間を手に入れても、旅行といえば誰かと行くもの。そもそも、ひとりで旅をするという選択肢すら持っていなかったのです。

そんな私の考えをガラリと変えたのは、コーチからのひと言でした。 「だからこそ、一人で行くんだよ」

最初は意味がわからず、「え?」と聞き返したほど。でも、確かにやってみなければわからない。そう思い、最初のひとり旅として選んだのが沖縄でした。

とはいえ、いざ一人で食事をする時間が訪れると、想像以上の孤独感に襲われました。沖縄の三線が流れるレストランで食事をしながら、寂しさに耐えきれず、気づけば涙が頬を伝っていました。

それでも、私にはひとり旅を「発信する場」がありました。旅の記録をブログに綴ることで、完全に孤独を感じることはなかったのです。

パリを歩いていたとき、「メルマガ読んでます!」と声をかけられたこともありましたし、与論島では、現地で働くクライアントさんのおかげで、忘れられない素晴らしい思い出ができました。そして、今回のプロヴァンスの旅では、メルマガを読んでいたニース在住の方が連絡をくださり、ローカル交通の情報を教えていただきながら、食事をご一緒する機会まで得ることができました。

旅先に知っている人がいることで、どこかほっとする瞬間がある。そんな小さなつながりが、ひとり旅の安心感へとつながっていきました。


旅のきっかけは「前世療法」

プロヴァンスを旅の目的地に選んだのには、少し変わった理由がありました。

独立して間もない頃、私はヒプノセラピー(催眠療法)を受けに行ったことがあります。そのセッションの中で、ある港町の風景がはっきりとイメージに浮かびました。紺碧の海には、無数のヨットや船が停泊し、波が岸壁に白く砕けています。「ここは漁港かしら?」と思いながら、その風景をじっと眺めていました。私は高台の家に住んでおり、どこか寂しそうに、遠くに浮かぶ船を見つめている自分がいました。

「ここはどこだろう?」

不思議に思い、帰宅後すぐにGoogleマップを開き、なんとなく地図をクリックしてみました。すると、そこに映し出されたのは、私がセッションで見た景色にそっくりな風景。地名を見ると、そこには 「マルセイユ」 と書かれていました。

その瞬間、私は確信しました。

「きっと、いつかここを訪れることになる。」

そんな直感に導かれるようにして、私はプロヴァンスへの旅を決めたのです。

そして、2011年10月、遂にその時がやってきました。航空券とホテルだけがセットになった、シンプルなパッケージツアーを予約。あとはすべて自由にプランニングできる旅。口にするだけで、ワクワクしてくる 「プロヴァンス」 という響きに、期待が高まりました。


プロヴァンスを巡るひとり旅のルート

今回の旅のルートは、ニース → サン・ポール → ヴィルフランシュ・シュール・メール → エズ → モナコ → エクス・アン・プロヴァンス → ルールマラン → ルシヨン → アヴィニョン → パリ という贅沢なもの。

サン・ポールはシャガールゆかりの地。エクス・アン・プロヴァンスにはポール・セザンヌのアトリエと、彼が愛したサント・ヴィクトワール山があります。私はまだ本格的に美術を学び始めたばかりでしたが、とりあえず「印象派の画家たちが愛した光と空気を、自分も感じてみよう!」という軽い気持ちで向かいました。

2011年10月後半、心を躍らせながら、私はニースへと飛び立ちました。しかし、海外ひとり旅には、想像を超えた"洗礼"が待ち受けていました。


エクス・アン・プロヴァンスの街で迷子になる

エクス・アン・プロヴァンスの街を歩いていると、Googleマップがまったく役に立ちませんでした。狭い路地が迷路のように入り組み、スマホの位置情報が正確に表示されないのです。

「あと30分で目的地に着くはず」と思っていたのに、どれだけ歩いても辿り着かない。気づけば同じ道を行ったり来たり。時間だけが無情に過ぎていき、焦りが募っていきました。

「……なんでこんなに道がわかりにくいの!? もういい加減にして!!」

あまりにもイライラしすぎて、歩きながら口から出るのは、思わず汚い言葉のオンパレード。

「もう疲れた!! くそっ!!!」

そして、ようやく1時間後、目的地の噴水前に到着。安堵のため息をついた、その瞬間——。

ポトン……。

「ん?」

なにか、冷たいものが頭に落ちてきた。

恐る恐る指で触れてみると……。

鳩のフンだった。

一瞬、時が止まった。

「……マジで?」

さっきまで怒りにまかせて悪態をついていた私の頭上に、まさかの"ウン"が降ってきたのです。

「思考は現実化する」とよく言われますが、まさかこんな形で証明されるとは……。

ショックすぎてしばらく動けませんでしたが、最後はもう笑うしかなく、そっとウェットティッシュで拭きました。


プロヴァンス発、パリ行き――不安と驚きのTGV

電車はもっと前方まで来ると思っていましたが、なぜか中途半端な位置で止まってしまいました。

「……なぜ?」

焦りながら、私は(R)の位置から約10メートル先の電車へ向かって駆け寄りました。乗り込もうとしたその瞬間、目の前にあったのは 「8」ではなく「1」 の数字。

「えっ、ここ1号車!? そんなはずはない!」

電車も遅れていましたし、今から「8」号車まで走るのは到底無理です。それに、そもそも私は(R)の位置で確認したのだから、この1号車すら怪しく思えてきました。本当にこの電車でパリに着くのでしょうか。しかし、順番的には次の次の電車のはず。

「もう仕方ない、乗るしかない……!」私は覚悟を決めて、1号車に足を踏み入れました。


まさかのデッキ席――不安と戸惑いの時間

「次の駅で降りて、8号車まで全力で走る?」

そんな考えが一瞬よぎりましたが、荷物が重すぎます。まずは身軽になろうと、1号車の空いているスペースに荷物を置きました。少し落ち着いてから、もう一度座席を確認しようと1階席、2階席を見て回りましたが、やはりどう見てもここは1号車です。

そんなとき、デッキにギターを持って座っている女の子が目に入りました。彼女に倣い、私も次の駅までデッキに座ることにしました。周りを見渡すと、他にも階段に座っているムッシュたちがいます。

「どうやら、私だけではないらしい……。」それでも、せっかく指定席があるのに座れないわびしさと、不安な気持ちが入り混じり、なんとも言えない心境になりました。

デッキ席は、車内とは違う独特の空気が流れています。車窓から差し込む陽の光が、壁のオレンジ色の灯りと混ざり合い、静かな影を落としていました。窓の向こうには、青空に浮かぶ雲がゆっくりと流れ、遠くの木々が疾走する列車に合わせて次々と過ぎ去っていきます。

ここは、どこでもない場所。座席にも客室にも属さず、ただ車両と車両の間にある小さな空間。人々の話し声は遠く、代わりに響くのは、レールのつなぎ目を越えるたびに生まれる規則正しい振動音と、低く唸る車輪の音だけ。

ようやく車掌がやってきました。

すがるように切符を差し出すと、彼は一瞥して 「ここにいなさい」と一言。

「え? それだけ?」

拍子抜けするほどあっさりしていました。でも、これで正式に私はデッキ席の住人になったのです。もう、とにかく 「パリにさえ着けばいい」。そう思うことにしました。

しかし、ふと気になり 「TGVの駅ってどこを通るんだっけ?」 とGoogle MapのGPSで何度もパリへ向かっていることを確認していました。余計な心配をしながらも、万が一のルートを頭の中でシミュレーションしました。「ここで降りたら、こう帰ればいいし……」と、いろんな可能性を考え始めます。

そんなことをしている間に、ふと、目の前のギターケースを抱えた少女が動きました。彼女がギターを取り出し、ポロンと弦をはじく音が響きます。ふいに前に座っていた女の子がギターを取り出し、ポロンと音を響かせ、そのまま歌い始めたのです。

「……私がこんなに困っているときに?」

ギターの弦が軽やかに震え、静かなデッキ席にやわらかな音色が広がります。そのメロディーは、焦りや不安をそっと包み込むような優しさを持っていて、不思議と気持ちがほぐれていきました。

「今を生きると、幸せを感じることができる」

与論島で学んだはずのその感覚が、まだ自分の中で十分に生かされていなかったことに気づきました。頭の中で必死に状況を整理し、次の手を考え、間違いを悔やむばかりだったけれど、本当はこの瞬間を楽しめばよかったのです。

3時間経ってようやくパリに到着しました。電車を降りた瞬間、目の前に広がるのは 驚くほどの晴天。しかも、思っていたより 暖かい!

改札を通るシステムはなく、降りた人々が一斉に出口へと流れていきます。どっと押し寄せる人波に身を任せながら、ようやく心の底から安堵のため息をつきました。


◆編集後記

今では信じられないほど、「もしも」のシナリオを想定して、安心できる方法を見つけて安心しようとしてた自分に驚きます。それよりも、早く諦めて、今を生きよう。(笑)

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