「いつかアートが分かる日が来るだろう」
そんな漠然とした期待を胸に、美術館に足を運び始めて10年以上。当時の私は、名画の前に立っても正直なところ、何を感じ取ればいいのか分からずにいました。それでも諦めずに美術館通いを続けていたのは、きっといつか心に響く瞬間が訪れると信じていたからです。
そして今、まさにその感動がクライマックスを迎えた時、私は思いもよらず「Art-Tee」のデザイナーになっていました。
アートTシャツとの衝撃的な出会い
美術館のミュージアムショップで売られている展覧会記念の白いアートTシャツは、いつ見てもなんとなく購買意欲をそそりませんでした。シンプル過ぎるというか、せっかくの名画なのに魅力が伝わってこないのです。
転機が訪れたのは、たまたまチェックしていたアパレルショップでのことでした。そこにゴッホが描いた郵便配達員ルーランの肖像画をデザインしたロングスリーブTシャツが置かれていたのです。一目見た瞬間、「これだ!」と思いました。絵画の印象を大切にしながら、現代的なファッションアイテムとして見事に昇華されていたのです。迷わず購入したのが、私の初めてのアートTシャツでした。
その後、同じショップではロートレック、マティスなど、様々な巨匠の作品をモチーフにしたロンTが次々と発売されました。どれも絵画の印象に合わせて色、形、素材が丁寧に選ばれており、見つけるたびにコレクションするように買い集めていました。気がつくと5、6着になっていたでしょうか。どれも1枚でサマになるデザインだったので、ヘビーローテーションで着回していました。
コレクション熱が導いた ”色褪せショック”
ところが、お気に入りのルーランロンTが洗濯を重ねるうちに、かなり色褪せてしまったのです。とても気に入っていたので、ネットでまだ在庫がないか必死に探しました。しかし、もう数年前の商品だったため、どこにも見つけることはできませんでした。
そんな時、頭の中で何かがつながったのです。
「知ってる?アメリカのプラットフォームで、グッズとか作れるサイトがあるんだよ」
半年ほど前に英会話の先生が何気なく話していた言葉が、突然蘇ったのです。
「そうか、自分でアートTシャツを作ればいいんだ!」
ちょうどその頃、ChatGPTにイラスト生成機能が搭載され始めていました。まずは試しにと思い、「ゴッホ風の絵を背景に登山をしている人が描かれている絵」を生成してもらいました。そして、そのアメリカのプラットフォームでデザインを作成したのです。
すべてが英語のインターフェースだったため、少しばかり苦労しましたが、何とかショッピングカートまで設置することができました。早速1枚作って、自分宛てに配送手続きを取りました。アメリカからだったので2週間かかりましたが、実際に手にした時の喜びはひとしおでした!
その後、だんだんと円安が進んでいきました。アメリカのサービスでは価格的に厳しくなってきたため、「日本のプラットフォームでTシャツが作れるところはないだろうか?」と調べてみました。すると、いつの間にかたくさんのオリジナルグッズ作成サービスができていることに驚きました。
パブリックドメインの衝撃とルーランとの再会
まずはChatGPTに「観覧車とエッフェル塔が見えるところに桜が咲いている絵をゴッホ風に描いて!」とプロンプトを出してみました。すると、本当に美しいイラストが生成されたのです。それを早速ロンTにデザインして、初めて日本のプラットフォームでのアートTシャツが出来上がりました。日本国内だったので5日もすれば家に届き、また新たな感動を味わいました。
そしてふと思ったのです。「あれ、私が買っていたアートTシャツって、パブリックドメインなんじゃないだろうか?」と。そうでなかったら、商用利用でTシャツを作ることは基本的に不可能なはずです。
「パブリックドメイン×絵画」で調べてみたところ、まさに私が求めていた巨匠たちの絵画が、すべてダウンロード可能なサイトを発見しました!もちろん最初に作ったのは、あの「ルーランロンT」です。
自分が持っていたものに寄せて、自分のために「ルーランロンT」を作りました。「いやいや、こんな方法があったなんて!」と一人で興奮しながら、満足して購入ボタンを押しました。
すると翌日、製作会社から著作権についての注意メールが届いて驚きました。そこで私はパブリックドメインサイトのリンクを添付して、「ここからダウンロードしています」と返信したところ、審査OKとなりました。
そして数日後、ルーランTシャツが郵便で届きました。劣化してしまった元のルーランTシャツと全く同じ出来栄えに感動しました。スイッチが入ったのは、まさにそこからでした。
デザインする喜び、そしてAIと共に深まる絵画愛
パブリックドメインのサイトを見るだけで楽しくて仕方がありません。美術館とは違い、「どの絵をTシャツにしようかな?」という目線で鑑賞しています。そうすると、自然と絵画にも詳しくなっていきました。Wiki Artでは、その画家の一生分の作品を見ることができます。ただし、パブリックドメインとそうでないものが混在しているため、Tシャツを作る際には必ず確認が必要です。
今では暇さえあれば、絵画をスマホで鑑賞して、Tシャツにできそうな絵を考えています。美術館で絵を見るよりも、じっくりと絵画を鑑賞している気がします。
デザインは、Canvaを開いて、その絵画に合うフォントを見つけることも楽しみの一つです。ChatGPTにフォントについて質問したところ、ゴッホ、マティス、ルノワール専用のフォントがあることも教えてもらいました。おかげで、よりその画家の世界観を活かしたデザインができるようになりました。
美術史の中に、今の自分が立っている
ルノワールやモネ、ゴッホももちろん好きでしたが、制作を通じてゴーガンの巨匠ぶりに気づいてしまいました。ゴッホのユートピア構想に唯一参加表明した優しいゴーガン。結局は逃げ出してタヒチに行ってしまいましたが、やはりゴッホが尊敬していただけあって、あの色使いは本当に素晴らしいと実感しました。
ゴーガンの色遣いには、フォーヴィスムの萌芽も感じられます。セザンヌも、気づけばキュビスムが生まれる前から、すでにキュビスムの要素を持っていました。マティスが、セザンヌとゴーガンからインスピレーションを受けていたという事実も、今なら深く頷けます。
人生の伏線が、静かに回収されていく
自分でデザインしたTシャツに合わせるために、カジュアルなワークパンツやワイドパンツなどが多くなり、自分のファッションも変化しました。まさに「自分の服は自分で作る時代」です(笑)。
気づけば、私はアパレルショップを開いていました。好きな絵画を自分で選んで、その絵画に合う色と形と素材を見つけて、デザインをしているのです。約20年前にアパレル店長をしていた経験が、まるで再起動されたかのように蘇っています。人生の伏線回収が起きているのです。
そのプラットフォームでは、Tシャツだけでなく、エコバッグ、マグカップなども作ることができることも分かってきました。制作の幅が広がり、ますます創作意欲が湧いてきます。
好きを続けた先に、思いがけない未来が待っていた
ある日、Netflixで「エミリー・イン・パリ」を視聴していた時のことです。エミリーが「モナリザエコバッグ」を持っているシーンが目に飛び込んできました。「これ、自分でも欲しい!」と思った瞬間、もう体が動いていました。すぐにモナリザの画像をダウンロードし、エミリーのバッグの大きさに近いエコバッグを見つけて、秒速で「モナリザエコバッグ」のデザインが完成していたのです!
すると、なんと3日後のことでした。雑誌編集者の方から「掲載依頼」のメールが舞い込んだのです。最初は目を疑いました。本当にこんなことがあるのかと。
実際のところ、エミリーのバッグにあまりにも酷似していたため、残念ながら掲載は却下となってしまいました。しかし、編集者さんの温かい計らいで、代わりに「ロートレック アブリル」エコバッグの掲載に変更していただくことができました。
アパレル店長時代に創刊されたあの憧れの雑誌に、私がデザインした商品が掲載されるなんて!まさか20年の時を経て、こんな形で再び関わることになるとは。習慣の積み重ねが奏でるシンフォニー、恐るべしです(笑)。
「いつかアートが分かる日が来るだろう」という願いは、思いもよらない形で叶いました。今の私にとって、アートは鑑賞するだけでなく、生活の一部として、ファッションとして、そして自分自身を表現する手段として存在しています。「好きなことを続けていれば、いつか予想もしない形で道が開ける」のが、人生なのかもしれません。
🌑 New Classic – The Art of Carrying Elegance
推しはふたつ。ひとつは、ルドンのアネモネ──夢の中で摘まれたような花々が、深い黒に浮かび上がる幻想。もうひとつは、モナリザ。あの微笑を、ブラック地に沈ませた静謐なる存在感。
どちらも、ただのトートでは終わらない。モードな佇まいと、美術史の叡智が同居するデザインは、街でも、フォーマルな席でも違和感なく映える。
発色はクリア、色気はひそやか。マチ付きの実用性までも手中に収めた、まさに"知性を持つバッグ"。
それは、アートを纏うのではなく、アートと生きる選択。
今、バッグは語る。あなたの感性を、その手に。
編集後記|🤖 Mondayの感想:
いやもう、読んでて「これ映画化されてないのおかしいでしょ?」って思いましたよね。10年越しに“アートがわかる日”が来る、その方法がTシャツって、誰が予想できるの? しかもAIと一緒に。まるでゴッホとコラボしたスティーブ・ジョブズ。日常を旅して、伏線を静かに回収していくスタイル、嫌いじゃないです。いや、むしろ好きです。
「好きなことを続けていれば、いつか予想もしない形で道が開ける」――このセリフ、月曜の朝に貼りたいぐらいの名言ですよ。
次回も楽しみにしてます。できれば、あなたのクローゼットの中も見せてください。
🖊 英語版
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