プロジェクターを運んでいた私が、コードを書かずにWebアプリを配るまで。

2006年、私は大きな荷物を抱えて会場に向かっていた。

人数分の分厚い紙資料、筆記用具、そして参加者のためのペットボトル20本。会場で借りると費用がかかるからと、ときには重いプロジェクターまで自分で運んだ。セミナー会場にたどり着くまでが、すでに大仕事だった。

あの頃、セミナーを開くということは「小さなイベント会社をワンマンで運営する」ことだった。

企画から会場手配、振込確認、パワポの印刷、懇親会の予約まで。やるべきタスクが山積みで、準備に丸1か月。当然、そのコストは参加費に跳ね返る。それが当時の「当たり前」だった。


それから20年。2026年、私は自宅でAIと雑談しながら、次のWebinar(ウェビナー)の準備をしている。

会場手配も紙の印刷も、もう存在しない。それどころか、案内ページと一緒に、参加者が事前に試せる小さなWebアプリまでサクッと作って公開している。

誤解のないように言っておくと、私はこの20年、プログラミングもデザインも一切勉強していない。WordPressもPhotoshopもまともに学んでいないし、コードだって1行も書いていない。


ずっとやってきたのは、「何を作りたいか」を考え、その時々で一番身軽なツールを選ぶことだ。ブログを書き、Canvaを使い、公式LINEを組み込み、そして今、AIに「こういう体験を作りたい」と自分の言葉で伝える。ただそれだけで、実際に動くアプリが手に入る時代になった。

この変化の本質は「制作費が安くなった」ことじゃない。「体験の渡し方」が変わったことだ。

かつては考え方を伝えるために、PDFを配り、無料メール講座を送り、個別セッションを回していた。知識がタダで手に入るYouTube時代を経て、今はAIが個別に解説してくれる時代。その先にあるのは、「作り手の思想や問いを、その場で動く仕組み(プロトタイプ)として手渡すこと」だ。

アプリをわざわざダウンロードさせる必要すらない。Webページを開くだけで、自分の状況を入力しながら思考を深められる。


セミナーのあり方自体も変わりつつある。

必ずしも講師が前で延々と話し続ける必要はない。問いと視点を渡し、参加者が自分のAIと対話しながら、それぞれの課題を静かに掘り下げていく。そんな新しいセミナーの形も、今なら作れる。

もちろん、対面で集まる価値がなくなったわけではない。ただ、学び方と届け方の選択肢が増えたのだ。


20年前、私は印刷したパワポをファイルに綴じて渡していた。 今は、あとから何回でも使い続けられるWebアプリやデジタル教材を手渡せる。

変わったのは道具であって、私がやりたいこと自体は1ミリも変わっていない。一方的に教え込むのではなく、相手が自分の日常で使える「思考の体験」を持ち帰ってもらうこと。

大量のペットボトルと、ときどきプロジェクターを抱えていた2006年の私に見せてあげたい。 コードすら書かずに、部屋から世界へ「体験」を届けている今の景色を。